【開催レポート】2026年7月28日(火)政経勉強会/講師:横田美香 広島県知事

【開催報告】2026年7月28日開催 政経勉強会
講師:広島県知事 横田美香氏

2026年7月28日(火)、東京都品川区の「BLOCKS MEGURO」にて、政経学修会主催の政経勉強会を開催いたしました。
今回は、広島県初の女性知事である横田美香氏を講師にお迎えし、広島県が直面する課題や県政運営の方向性、知事の役割、これまでのキャリア、政治・行政に携わるリーダーに必要な考え方についてご講演いただきました。
農林水産省、民間企業への出向、富山県副知事、内閣官房内閣審議官、広島県副知事など、多様な経験を重ねてこられた横田知事ならではの、行政実務と人間理解の両面にわたる内容となりました。

開催当日、副首都の候補地への名乗りに意欲

開催当日の県政をめぐる重要な動きとして、横田知事は7月28日午前の定例記者会見において、広島県が「副首都」の候補地として名乗りを上げることを前向きに検討する考えを表明されました。

広島県 横田知事 「副首都」指定目指す意向表明 | NHKニュース

【NHK】大規模災害の際に首都の代替機能を担う「副首都」構想の関連法が成立したことを受けて、広島県の横田知事は県の「副首都」への指定を目指す考えを表明しました。 …

横田知事は、副首都構想が掲げる大規模災害時の国家・社会機能の継続や、人口・経済機能の東京一極集中を是正し、多極分散型の経済圏を形成するという考え方は、広島県が目指す方向性とも一致すると説明されました。
また、広島県は一定の経済規模や産業集積、都市機能を有しており、首都機能を代替するために必要な条件を備えているとの認識も示されました。
一方で、副首都の指定要件や具体的な制度設計については今後整理されることから、まずは広島市をはじめとする関係先と調整を進めていく考えを明らかにされました。
広島県が副首都の候補地となることへの意欲が示された日に、横田知事から県政運営や地方の持続可能性について直接お話を伺う、非常に意義深い勉強会となりました。

講演

自治体の長にとって危機管理は最も重要な仕事

勉強会当日は、熊本県で最大震度7を観測する地震が発生しました。
横田知事は講演の冒頭でこの地震に触れ、広島県内ではその時点で被害が確認されていないことや、九州への支援に向けた対応を進めていることを説明されました。
そのうえで、災害発生時に県民の生命と暮らしを守る危機管理は、自治体の長として最も重視しなければならない仕事の一つであると語られました。
日々の政策を進めるだけでなく、突発的な危機に際して迅速に情報を収集し、他の自治体や関係機関と連携しながら判断することも、知事の重要な責務であることが伝わるお話でした。

広島県が持つ産業・文化・平和の発信力

続いて、広島県の産業や地域特性についてご紹介いただきました。
広島県には、自動車をはじめとする製造業、半導体関連産業、卸売業など、中国地方の経済を支える産業が集積しています。
一方で、人材や産業用地の不足、原材料・エネルギー価格の上昇、国際情勢や関税政策の影響など、世界経済と直結する課題にも直面しています。
また、カープ、サンフレッチェ、ドラゴンフライズ、広島交響楽団など、スポーツや文化の面でも全国に発信できる多くの資源があることが紹介されました。
広島県には二つの世界遺産があり、国内外から多くの観光客が訪れていることも紹介されました。2023年にはG7広島サミットが開催され、現在も原爆ドームを目指して多くの方が広島を訪れているとのお話がありました。
さらに、核をめぐる国際情勢が厳しさを増すなか、被爆地である広島には、核兵器のない平和な世界の実現に向けて声を上げ続ける使命があると強調されました。
政府間の協議だけでは対立を乗り越えることが難しい局面において、自治体や市民社会から発せられる声が一層重要になるとのお話もあり、広島県知事として平和に向き合う強い決意が示されました。

広島県の大きな課題「人口減少と社会減」

広島県が直面する最も大きな課題の一つとして、人口減少、特に県外への転出による社会減についてお話しいただきました。
東京一極集中が進むなか、人口が東京へ集まるだけでなく、オンライン取引の売上が本社所在地に計上されることなどによって、地方と東京の税収格差も拡大しているとの問題意識が示されました。
こうした状況を乗り越えるため、広島県では、産業の成長や若者の挑戦を支援するとともに、子育て、暮らし、文化、観光などを一体的に充実させ、「人を惹きつける地域づくり」を県政の柱として進めています。
横田知事は、観光振興についても、単に来訪者を増やすだけでなく、地域の魅力を見つめ直し、磨き上げることにつながると説明されました。

知事の仕事を構成する三つの役割

横田知事は、知事の仕事には大きく三つの役割があると説明されました。
一つ目は、県民を代表し、県内外に向けて地域の考えや思いを発信することです。
二つ目は、道路、河川、砂防、教育、医療、福祉、産業振興、農林水産業など、幅広い行政分野を担う県庁組織をマネジメントすることです。
三つ目は、県民や民間の活動を支援し、地域全体の発展を後押しすることです。
県庁は、自らすべての事業を実施するだけでなく、県民や企業が力を発揮できる環境を整え、地域経済や社会の発展を支える役割を担っているとの説明がありました。
知事には、政策を立案する能力だけでなく、大規模な組織を動かし、県民や企業を支え、鼓舞する力が求められていることを学びました。

農地の再整備と持続可能な農林水産業

約30年間にわたり農林水産省で勤務された経験から、農林水産業の持続可能性についても詳しくお話しいただきました。
農業従事者の高齢化や減少が進むなか、将来にわたって食料生産を維持するためには、細かく分散した農地を集約し、農業機械や自動運転などの技術を導入できる規模に再整備する必要があります。
広島県では、将来の世代へ農地を引き継ぐための重要な時期を迎えているとの認識から、農地の集約と再整備を進めようとしています。
横田知事は、中山間地域であっても生産性を高め、少ない人数で持続的な食料生産ができる環境を整えることが必要であると語られました。

医療機能の集約と安全・安心の基盤づくり

人口減少と高齢化は、地域医療にも大きな影響を与えています。
患者数が将来的に減少する一方で、高齢化に伴い、救急医療の需要は増加しています。
また、若い医師が高度な医療や優れた指導医のもとで研修できる環境を求める傾向があるなか、広島県における若い医師の確保が課題となっています。
限られた医療資源で救急患者を確実に受け入れるためには、病院や医療機能を適切に集約し、医師が研修・成長できる環境を整える必要があるとの考えが示されました。
このほか、土砂災害や地震などへの防災・減災対策についても、安全・安心な暮らしを支える県政の重要な基盤として紹介されました。

これまでの経験はすべて現在につながっている

横田知事は、広島県呉市で生まれ、小学校5年生から中学校3年生までをブラジル・リオデジャネイロで過ごされました。
海外で生活するなかで国際情勢に関心を持ち、「日本のために何かをしたい」という思いを抱くようになったことが、その後、中央省庁を志す原点になったと語られました。
農林水産省では、農業政策だけでなく、食品表示、食品安全、知的財産、国際化する食料供給など、幅広い課題を担当されました。
また、民間企業への出向を通じて、行政と民間では物事の見方や仕事の進め方が異なることを学び、その経験が、後に民間と行政が連携して食品安全に関する規格や認証の仕組みをつくる仕事につながったとのことです。
その後、富山県副知事、内閣官房内閣審議官、広島県副知事を経て、2025年11月に広島県知事に就任されました。
横田知事は、これまでに経験した一つひとつの仕事や出会いが、現在の知事としての判断や政策づくりにつながっていると振り返られました。

政治の目的は人々のウェルビーイング

講演のなかで特に印象的だったのが、政治と人間の欲求、ウェルビーイングとの関係についてのお話です。
横田知事は、人が安心して生活できること、社会のなかに居場所があること、他者から認められること、自らの能力を発揮して社会に貢献できることなど、人間が持つさまざまな欲求に触れられました。
そして、政治の目的は、人々が身体的、精神的、社会的に満たされた状態となり、幸せに暮らせる社会をつくることではないかと語られました。
制度や予算だけを見るのではなく、政策の先にいる一人ひとりの人間を理解することが、政治や行政には欠かせないというメッセージでした。

リーダーに求められる「一人勝ちしない」という姿勢

農林水産省時代の研修で農家から教わった考え方として、地域の農業は一人だけが勝つのではなく、地域全体で知識や利益を分かち合って初めて「産地」になるというお話が紹介されました。
競争に勝つことは必要である一方、組織や地域、社会全体をまとめ、長期的な発展につなげるためには、すべての場面で自分だけが勝とうとしない姿勢も必要です。
管理職時代に部下から伝えられた「負けというのも勝ち」という言葉を、今も大切にしているとのお話もありました。
政治とは、異なる立場や欲求を持つ人たちをうまく「治め」、社会を前へ進める仕事であるという横田知事のリーダー観が示されました。

正直な議論と客観的な視点

組織のトップになると、自分にとって不都合な情報や率直な意見が届きにくくなることがあります。
だからこそ、議会によるチェックだけでなく、家族や職員から客観的な意見を聞き、正直に議論できる環境をつくることが重要であると語られました。
また、リーダーには、問題を設定して解決する力、必要な情報を見つけ出す力、相手を尊重する力、一人ひとりに合った言葉で組織を鼓舞する力が求められるとのお話がありました。
管理職は、自分自身の能力を高めることだけでなく、チームや組織全体の力を最大限に引き出すことが仕事であるというお話は、政治・行政関係者だけでなく、企業や団体を率いる参加者にとっても大きな示唆となりました。

質疑応答

講演後の質疑応答では、参加者から農業政策や県財政について具体的な質問が寄せられました。

農地の集約とスマート農業について

農業人口が減少するなかで、山間部に分散した農地をどのように集約し、持続可能な農業につなげていくのかという質問がありました。
横田知事は、戦後の農地改革などを経て細分化された農地について、まずは集落で将来の利用方法を話し合い、地域の合意を形成することが必要であると説明されました。
そのうえで、小さく分かれた農地をより大きな区画へ再整備し、機械化や自動運転をはじめとするスマート農業を導入できる環境をつくることが重要であると回答されました。
農業を志す若者は現在も一定数おり、農地を使いやすい状態で次世代へ引き継ぐことが、地域や行政の責務であるとの考えも示されました。

県の財政と政策の自由度について

県の予算がどのような財源で構成され、県独自の政策にどの程度活用できるのかという質問もありました。
横田知事からは、広島県の予算には、学校教職員の給与、警察、医療・社会保障、過去に整備した施設や災害復旧に伴う公債の返済など、継続的に必要となる経費が多く含まれているとの説明がありました。
また、地方自治体が借入れを行える対象は法律による制約があり、自由に財源を確保できるわけではないため、財政状況を慎重に見極めながら政策を実施する必要があるとのことでした。
県だけで解決することが難しい全国共通の課題については、国に対して政策提案や財政支援を求め、国と地方が一緒になって取り組むことが重要であると語られました。

おわりに

講演終了後には、参加者との記念撮影が行われ、会場は最後まで温かな雰囲気に包まれました。
県政が直面する人口減少、産業、農林水産業、医療、防災、平和などの課題に加え、人間の欲求やウェルビーイング、組織マネジメントにまで踏み込んだ今回の講演は、政治と行政の役割を改めて考える貴重な機会となりました。
「一人勝ちをしないこと」
「負けというのも勝ちであること」
「客観的な視点を持ち、正直な議論を続けること」
横田知事から語られたこれらの考え方は、政治・行政に携わる方だけでなく、組織を率いる経営者や社会人、これからの社会を担う学生にとっても、大きな学びとなるものでした。
横田知事、ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
政経学修会では今後も、「政治と経済をもっと身近に、より楽しく」をモットーに、政治・行政・経済の第一線で活躍する方々を講師にお招きし、学びと交流の機会を提供してまいります。

次回のご参加も心よりお待ちしております。

写真提供 笠原 泰三さん(写真家・フォトグラファー)